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2019.09.10
インタビュー
峯野牧場 代表 峯野 忍
知る人ぞ知る、味わい深い牛肉は静かな奥深い山中で育てられていた。
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山あいの牧場の良さを最大限に引き出す

 

浜名湖の北東部に位置し、自然ゆたか、温暖な気候の引佐町奥山。味にこだわり、安全・安心な峯野牛を育て上げる峯野 忍さんにお話を伺った。

 

ーーーー峯野牧場の成り立ちを教えてください。

 

 峯野牧場は約45年前、先代である父が3頭の牛を育てるところから始まりました。僕が物心つく頃からずっと忙しくて、僕も子どもの頃から、ちょこちょこ手伝ったりはしていましたね。動物や野菜を育てることは元々好きだったので苦にはなりませんでした。  この道に進もうと思ったのは、高校生の頃です。高校は(農業科などではなく)普通高校。僕の高校は普通に進学校で、98%くらいの生徒は上の学校に進学するのが当たり前の雰囲気でした。僕は次男なので、長男である兄が家業を継ぐと思っていたんです。両親も長男が継ぐと思っていましたし、それで僕は普通高校へ進んだのですが、最終的に、兄が牧場を継がないことになりまして。そこで親から僕のところに話が来て、急遽進路変更をすることになりました。僕は理数系のクラスだったので工業系に進むのでは、と周囲も自分も思っていましたが、高校3年生のときに進路変更して農業大学に入りました。

 

ーーーー大きな進路変更でしたね。

 

 (牧場が)嫌いじゃなかったんです。生き物を育てるのが好きだったんですよ。

僕が大学2年生か3年生の頃にBSE(狂牛病)が流行したり、その前にアメリカ産牛肉の輸入があったりして、その影響で父親の体調が悪くなってしまいました。父の調子が悪くなって病気がちになり、大学を卒業したらすぐ、僕が牧場に入らざるを得なくなってしまって。そこから、ずっと牧場経営です。

 

ーーーー実際に牧場経営に携わってみて、いかがでしたか?

 

 峯野牧場に入って実感したのですが、うちの牧場は本当に山の中だな、と。広い土地を持っていて、いっぱい牛を飼える牧場さんと比べると、山の中の牧場は作業効率がめちゃくちゃ悪くて、労働が大変。経営的にも大変なんです。

 

 ただ、うちの牧場の特徴としては、その分、(牛にとっての)環境がすごくよく、自然が豊か。引き継いだ時、この立地の魅力を引き出す牧場経営をしたいと思いました。峯野牧場の牛は湧き出る天然水を飲み、山あいの静寂の中、のんびりと育ちます。そんな牛はなかなかいません。

 だからA5等級などの成績はとても良いのですが、(人間にとっては)作業効率が悪くて。とはいえ環境が良い分、お肉がおいしい。「お肉がおいしい」と高く評価されたから、良いお肉を「自分で売ろう」と思ったのが、直販のきっかけです。12〜3年くらい前ですかね。

 霜降りのお肉が高く売れるので、まずは直販で霜降り肉を売り始めたんですが、実際に始めてみると「牧場直送だから(霜降り肉が)安く手に入るだろう」と思う方もいたし、健康志向の方から「霜降りより赤身のお肉がいい」という声も多くありました。そこで「”霜降り”だけじゃない特徴が必要」だと思ったんですね。

 直販していても、うちのようにこだわって、こだわって、作業効率も悪い中で作っている牛肉は、卸しや商社をカットしたからといって、大きな牧場さんのようにコストカットはできないんです。「安くておトクな霜降り肉」というのは求められても応えられない。また、買ってくれたお客さんからも「霜降りじゃなくて赤身のお肉はないの」といわれたり、レストランのシェフから「もっと味のあるお肉はないの?」「味のあるお肉を作ったら?」と助言されたりして、それから試行錯誤が始まりました。

 「どうしたら味が良くなるだろう?」と研究を始めて、まずエサを変えました。それが7年くらい前。  消費者と直接繋がっていることを強みに変えていこうと思いました。

 

 

 

肉質へのこだわりが評判に

 

ーーーー峯野牛の魅力は何ですか?

 

 噛んだときコクのある、旨みのある赤身の肉質ではないでしょうか。それでいて脂の口どけはあっさりしているため、いくらでも食べられます。お肉の、特に脂の質にはこだわりがあって、融点が低い口どけのよさを追求しています。霜降りのような口どけのよさもいいけど、さらに脂っこくなく、噛むほどにおいしい、肉らしい肉=赤身にこだわっています。赤身といっても真っ赤じゃなくて、脂とのバランスがいいお肉。真っ赤なお肉だと歯ごたえが出てしまうので、多少の霜降りは残しつつ。

 直接売るからこそ「味」にこだわることができます。「味」って、こだわっても、実は市場評価には繋がらないんですよ。お肉は見た目が勝負なんで、きれいな霜降りが高く売れます。

 霜降りが高く評価されてきた歴史があるので、どの牧場も、ずっとそれに合う肉作りをしてきました。うちも「霜降り」の牛肉を作っていますが、「赤身のうまみ」が峯野牛の看板かな、と思っています。

 霜降り肉は松坂牛さんとか、神戸牛さんとか、すでに確たるブランドがあります。「そこを目指しているのか?」と考えると、そうではないんです。

 牧場が直接売るのなら、赤身のお肉でも成り立つのではないかと思いました。普通の牧場だったら、市場に流すためには高く評価される霜降りを作らなきゃならないけど、直接販売しているうちの牧場は、消費者が赤身のお肉を求めているのなら、それに応えられる。7年前、直販であることを活かしてお客さまが喜んでくれるお肉を作ろうと思いました。

 本当においしいお肉は、健康なお肉、ストレスなく育ったお肉です。そのため牛がリラックスできる環境には気を配っています。たとえば一群は5頭までと決め、子牛の頃からずっと同じ群れで過ごさせます。峯野牧場では、牛1頭あたり、国が定めるスペースの2倍は用意しているんですよ。マンモス校ではなくて、1クラス20名くらいの小規模な学校みたいなものですね。小さなグループだと異変があればすぐ気づくことができます。

 

 

ーーーーその他にも気をつけていることはありますか?

 

 先ほど話した通り、肉の市場は霜降り肉の追求ばかりされてきました。ですから、牛に与えるエサも霜降りをきれいに出すための配合が研究されてきたんです。もちろん、肉の見た目も大事なこと。ですが、“(赤身の)肉の味”にこだわったエサや飼育方法、環境っていうのは先行データがなくて、誰にもわからないんですよ。そのデータを自分でイチから研究しています。  エサの改良はいつも念頭にあって、つい3カ月前にも変えたばかりです。エサに何を入れたらいいのかを常に考えています。今でも美味しいお肉だと言っていただけますけど、もっと改良の余地があると思っています。

 

 

ーーーー「完成した、終わり!」ではないのですね。

 

 はい、改良や研究はずっと続いています。「(牛のために)もっといいことはないかな」といつも考えています。もともと僕は牛のことを研究するのが好きで、エサをどうすればいいのか、環境をどう整えればいいのか、ここ10年くらいそればっかり頭にあって。研究が好きかもしれない、経営よりも(笑)。

 

ーーーー浜松市で牛肉を直販している牧場は峯野牧場だけだと聞きました。

 

 はい、そうですね。

 これまで試行錯誤を重ねて、もちろん失敗もありました。でも肉質向上のための研究を続けているうち、県の品評会でも高い評価を得て受賞するようになり、それが直販を始めるきっかけになりました。

 3カ月前、新しい牛舎が完成したんですよ。品質向上のためには、ただやみくもに働くのではなく、牛のことを考え、ビジョンを持って常に研究を怠らないことが不可欠だと思っています。

 何度も繰り返しになりますが、直接販売するからこそ、味にはこだわり抜いています。一番大切にしているのは、ずっと変わらず健康なお肉、ヘルシーなお肉であること。ストレスなくのびのびと育ち、安心安全な牛肉であること。峯野牛は浜松市内のレストランでも食べられます。肉質には絶対の自信がありますので、出会ったらぜひ味わってください。  赤身を中心にしていますが、霜降りも用意しています。現在、霜降りのブランドは全国に多くありますが、赤身に特化したフィールドは、ほぼない状態です。赤身の市場が開拓できれば、牛肉の魅力がより広がると思っていますし、峯野牧場はそこに挑戦していきます。実際にお客様のニーズがあるのは確信していますから。

 

  1. 新村康二
    • 新村康二
    • 株式会社マスターピース 代表取締役・株式会社ワードローブ 代表取締役  2019年08月17日

    近年、注目されている浜松の新しいブランド、峯野牛。若き牧場経営者として何を思い、どんなビジョンを描いている方なのか非常に興味がありました。
    インタビューに伺った際には、見た目の爽やかさと柔らかい物腰が印象的でしたが、その頭の中はバリバリの理系脳!深掘りして聞いていくほどに自身の経営哲学や飼育に対するこだわりを饒舌に語っていただきました。物事の本質を捉え、理論的に組み立てられた峯野さんのアンサーに驚かされっぱなしで、この人どれだけ深く考え自身の事業を構築しているんだろうと感嘆しました。
    インタビュー後に撮影させていただいた牧場作業。先ほどまでの論理から離れ、愛情たっぷりの目線を牛たちに向ける峯野さんがとても印象的でした。

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