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2019.09.12
インタビュー
静岡県温室農業協同組合 クラウンメロン支所長 中條文義
価格競争から品質競争へ!静岡で確立した、世界に羽ばたくブランド力の源泉
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王者の風格、クラウンメロン

 

 東京の老舗デパートのフルーツ売り場でも別格の扱いである静岡クラウンメロン。長年、贈答にふさわしいブランド価値を維持し、今、さらなる飛躍を考えている静岡県温室農業協同組合クラウンメロン支所長 中條文義さんにお話を伺った。

 

ーーーー静岡クラウンメロンのことを教えてください。

 

 クラウンメロンとは、マスクメロンと別種のものではなく、ブランド名なんです。マスクメロンの中の最高品質ブランドがクラウンメロンです。50余年前に名前が考えられ、「売り出そう!」ということになり、今に至ります。

 日本一厳しい基準管理のもと、認定された組合員のメロンのみが名乗ることを許されています。「至高のフルーツ」「果物のダイヤモンド」と呼ばれるほど、希少性も高く、濃厚な甘みと香りを誇るフルーツです。

 

ーーーーメロンはどのように作られているのですか?

 

 私も生産者として40年以上、メロン作りに携わってきましたので断言できますが、静岡クラウンメロンは、手をかけて育てないと作れません。農作物を作るというより、「育てる」という感覚で組合員の1人1人が取り組んでおります。静岡クラウンメロンのホームページ(http://www.crown-melon.co.jp/)にも生産者インタビューが載っていますので、そちらもぜひご覧になってください。

 クラウンメロンは、1本の木から1個のメロンしか収穫しません。摘果し、1つの果実にすべての栄養を注ぎ込みます。メロンのT字型のつるはその証です。種まきから収穫まではおよそ100日かかるんですが、その間、毎日、2〜3回の水やりは欠かせませんし、玉つりや玉ふきなど、栽培法も独特です。

 うちの(組合の)メロンの作り方は特徴的で、地面に直接メロンを栽培しているのではなく、栽培床と地面を切り離しているんです。これを隔離ベッドといいます。そして、メロンのようすを見て、毎日、その日に必要な水の量を与えます。名人芸といわれる難しさもそこにあります。

 赤ちゃんの世話をするように愛情をかけ、手間をかけ、職人技によって、王者のフルーツが誕生するのです。編目(ネット)と味で価格が決まるんですが、この編目を出すにも相当な苦労があって、特徴も出やすい。おとなしかったり、少し粗い編目だったり、生産者で全然違います。育て方の特徴が出るものなんですよ。一つずつ、全部違うんです。

 

 

先人の努力で、メロンは袋井の特産物に

 

ーーーーなぜ、メロンが袋井の特産物になったのでしょうか。

 

 メロンは1900年頃、イギリスの貴族によって日本に種が持ち込まれました。初期の頃、早稲田にある大隈重信邸の庭の温室でも栽培されて、第一回マスクメロン品評会は大隈邸で開かれたんですよ。大隈重信は「メロンは若返りの秘薬である。公王、貴人の食卓を除くと、余り見られぬメロンを民衆化して、何人の食卓にも上らせたい」と言っています。私の想像ですが、当時の日本が西欧の列強に追いつけるように、庶民もメロンを楽しめるような優雅な暮らしになるように、願いを込めてメロンの普及に励んだのではないでしょうか。

 袋井市では1921年に3名の方が、初めてメロンを作りました。その頃、全国で同じようにメロンを作っていた方が大勢いたと思うんですが、袋井周辺の日照量だとか、肥沃な土だとかがメロンの生育に合っていて、この土地が産地として生き残っていったんです。もちろん、そこに先人の努力があったことは言うまでもありません。

 露地のメロンの旬は5・6・7月なのですが、温室なら周年で栽培できることもあり、袋井では最初から温室で栽培されました。現在、周年で栽培しているのはこの地域くらいではないでしょうか。

 袋井市は日本のほぼ真ん中で、日照量も非常に多く、肥沃な土地です。メロンは他の作物よりも、より太陽の光を好み、高温を好むので、ガラスの温室が選ばれました。ビニールやすりガラスだと、日照の透過率が悪いものですから、メロンの成長には良くなかったんですね。メロンは太陽が大好きなんです。たくさんの日光を受けて、初めてあの甘さが出るんですよ。

 これまでに改良に改良を重ね、夏の暑さや冬の気温など、季節の変化に応じて品種を使い分け、1年を通して安定した品質を保っています。

 

ーーーー高級ギフトの代名詞であるクラウンメロン。ブランドとしての歴史を教えてください。

 

 東京の老舗の青果店(くだもののお店)や百貨店が、お中元やお歳暮などの日本の文化に沿って、「大事な人に」と提案してくれたのが始まりで、それが定着していきました。なので、最初にこちら(の組合)から働きかけをしたというわけではないんです。こちら(生産家)は、一生懸命よいメロンを作ることに精一杯で、当時はブランド化を考えるところまで手が回りませんでした。

 メロンは当時とても珍しく、イギリスで貴族が食べていたという背景もあり、贈答用にぴったりだったということもあるのでしょう。ブランドの基礎は老舗のお店や百貨店に築いてもらったといっても過言ではありません。

 百貨店では、長年、クラウンメロンを別格として売り出していただきました。その分、消費者の好みや要望については、即座に連絡が来ました。「もう少し、口の中でとろけるような肉質がいい」とか「味をもっとなめらかに」とかね。作る側である我々は品種改良だったり、栽培技術の向上だったり、その都度それに応えてきました。結果、高級品として愛される今のクラウンメロンが誕生したのです。

 

ーーーーおいしいメロンを選ぶコツはありますか?

 

 編目(ネット)が均一で盛り上がっており、玉肌が白いもの。1.5キロ程度の大きさがよいでしょう。熟れ具合は、メロンの下部を軽く指で押してみて、柔らかさを感じたら食べごろです。

 

 

いつかはイギリスで売り出したい

 

ーーーー海外のマーケットも視野に入れていますか?

 

 いずれは、メロンの母国イギリスに行きたいですね。エリザベス女王にクラウンメロンをお届けに。2021年の100周年に間に合わせることを目標に、急ピッチでいろいろ進めているところです。

 明後日はアブダビ(UAE)にクラウンメロンの販売促進に行ってきます。王族の方々を相手に、売り込みに行ってくるんですよ。(中近東で)売れるようにならないと、その先(ヨーロッパ)に行けないので、宣伝や調査よりまず先に、自分たちが向こうに行ってきます。

 中近東で認知が上がったら、その先のヨーロッパへ。フランスの食卓やレストランでは、メロンをはじめフルーツは生ハムを載せる前菜としての役割が多いのですが、その昔はデザートでした。メロンをもう一度、デザートに戻したい。2019年はフランスのいくつかのレストランで、デザートとしてのメロンを試してもらう予定です。フランスのメロンは甘みが少なくて確かに前菜に合いますが、クラウンメロンの甘さは、デザートとして活きるものだと思っていますから。

 フランスでデザートとして認識されたら、その先のイギリスにも行けるんじゃないかな。……というストーリーはもう描いているんだけど、どこで何があるか分からないですからね(笑)。

 最近では、東南アジアの需要も増えてきました。アジアは食文化が似ていますし、日本の食材は好意的に受け入れられていると感じます。東京の市場には、春節の時期などに「クラウンメロン」と指定して買いにきてくださる中国系の観光客もいるようです。

 

ーーーー今後の目標やビジョンがあったら教えてください。

 

 温室メロンの魅力は、季節ものではなく、周年でいつでも用意ができること。濃厚な甘みと香りがあり、ジューシーで果汁たっぷりなこと。現在の品種はかなり完成形に近付いています。地球温暖化などの問題もありますが、品質を保ち、お客さまに「おいしい」と、笑顔で食べていただけるデザートであり続けたいと思っています。

 また、おかげさまで、いろいろな分野から引き合いがあり、フランスの高級ショコラティエとのコラボレーションの話も進んでいます。

 我々の先人である3名の方がメロンを育てた1921年から数えて、現在98年(*2019年現在)になります。100周年を迎える2021年を目標に、今、いろいろとプロジェクトが動いているところです。今後も積極的に行動していきたいですね。

 

  1. 新村康二
    • 新村康二
    • 株式会社マスターピース 代表取締役・株式会社ワードローブ 代表取締役  2019年09月16日

    ブランドとして確固たる地位を築いているクラウンメロン。農作物としては、高品質=高単価を実現した珍しいケースのビジネスモデルだと思っている。中條さんのお話を聞くと、そのキッカケは高度経済成長期にいち早く流通のトップブランドである百貨店に認めらてたことが大きいのではないか。日々、良いものをつくる努力は、ほとんどの農家が取り組むことであるが東京の一流店の要望に日々応え続けてきたことがクラウンメロンを現在の地位に押し上げたいのだと思う。さらにその品質を維持するための基準管理!生産農家も年々増えているそうなのですが、世界にクラウンの名が定着する日も近いのではと期待が膨らむ。

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